夏から秋にかけて、自宅庭のミカンの木にアゲハチョウが遊びにくる。クロアゲハ、ナミアゲハ……。新芽に止まると腹部を曲げ、一粒ずつ産卵する。3~4日後には、小さな幼虫の姿があちこちで見られる。
アゲハチョウの成虫(メス)は、産卵時に前脚で葉の表面をたたく「ドラミング」をする。葉の表面にある化合物を感じ取り、幼虫が食べられる植物なのかを確認しているという。
2015年夏、ミカンの木の下にある雑草を抜いていた時のこと。ふと見上げると、数匹のアゲハチョウの幼虫が目の前にいた。その時の囲まれているような景色が、360度動画企画「いきもの目線」を始めるきっかけになった。
今年も多くのアゲハチョウの幼虫が見られた。孵化(ふか)後、約20日間は天敵から身を守るため、鳥のふんに擬態してひっそりと暮らす。その後、鮮やかな緑色に変化する。
360度カメラを置いて、しばらく様子を見ていると、幼虫がレンズフィルターの上を歩き出した。普段見ることがない角度の映像だが、幼虫の脚は6本で、真ん中から後方は「腹脚」と呼ばれ、歩いたり、木につかまったりするために使う。
足立区生物園(東京都足立区)の飼育員・水落渚(なぎさ)さんによると、眼のように見える大きな模様は、鳥などの天敵から身を守るためと考えられており、実際は先端にある頭部に片側6個の単眼があるという。
幼虫は見た目で違いが分かる。クロアゲハの幼虫は、背中の帯が茶褐色で単色の網目模様があり、背面で切れていない。威嚇すると紅色の臭角を出す。ナミアゲハの幼虫は、腹脚の上に白い斑点帯があり、オレンジ色の臭角を出す。
実はこれまで、幼虫が成虫になって飛び立つ姿を見たことがなかった。今回、初めて幼虫を育ててみた。
水落さんによると、秋ごろに生まれた幼虫は、日照時間を計算して越冬するかを決めるという。自宅では羽化させるために明るいリビングで育ててみた。柔らかい若葉の新芽を与え、幼虫は日に日に大きくなり、きれいな緑色のさなぎになった。ところが数日後、さなぎの半分が茶色に変色した。水落さんに写真を見てもらうと「残念ですが、寄生バエの幼虫がいます」。寄生バエはアゲハチョウの幼虫の体に卵を産み付けるなどして寄生する。アゲハチョウが羽ばたく姿を想像していただけに悲しい結末だったが、自然の中で生きる厳しさと、命をつないでいくことの難しさを実感した。(竹谷俊之)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル